第20回
スタートアップ向けセミナー(東京)レポート
(IT・AIスタートアップに知財戦略は必要か?)

2025.10.31

10月31日、スタートアップ向けセミナー(東京)(以下、「本セミナー」)が、日本弁理士会主催、特許庁共催にて行われました。本セミナーは、会場とオンライン配信のハイブリットで開催され、合計87名の参加がありました。

1. 本セミナーの概要

タイトル:「IT・AIスタートアップに知財戦略は必要か? ~急成長スタートアップが取り組む知財活動に迫る~」

  •  日時:2025年10月31日(金) 19:00~21:00
  •  開催形式:ハイブリッド形式(オンラインおよび現地開催)
  •  会場:ビジョンセンター東京虎ノ門
  •  内容:
    • (1)開会挨拶(日本弁理士会 安高史朗氏)
    • (2)特許庁のスタートアップ支援について(特許庁 湊和也氏)
    • (3)パネルディスカッション:「急成長スタートアップの知財戦略~AIで加速する事業に知財をどう活用するのか?」
      • 【登壇者】岩城達哉氏(株式会社estie)
      •      鬼鞍信太朗氏(株式会社LayerX)
      •      佐生友行氏(株式会社HQ)
      •      米谷 仁矩氏(ビジョナル株式会社)
      • 【モデレーター】廣田翔平氏(日本弁理士会/グローバル・ブレイン株式会社)
    • (4)閉会挨拶(特許庁 渡邉純也氏)

【司会】澤井周氏(日本弁理士会/株式会社アルトIPコンサルティング/アルト特許事務所)

2. 特許庁のスタートアップ支援について

(特許庁 総務部 企画調査課 スタートアップ支援班長 湊 和也氏)
 スタートアップにおける知財の課題として、基本特許を押さえるだけでなく、先を見越した戦略的な知財活動が必要であり、例えば創業期では、基本特許が共同研究先企業との共有特許になっていて、侵害立証性の低い特許を出願してしまっていた等、成長ステージごとの陥りやすい落とし穴の紹介がありました。
 その上で、特許庁・INPITは、特に技術系スタートアップの事業成長・効果的なオープンイノベーションに欠かせない知的財産の戦略的な利活用を促進する施策として、以下の支援のご紹介がありました。

(1)伴走支援(IPAS、VC-IPAS)

(2)普及・啓発・コミュニティ形成支援(IPBASE)

(3)窓口支援(INPIT知財総合支援窓口、スタートアップ知財支援窓口)

(4)料金支援制度・スーパー早期審査

3. パネルディスカッション

 下記2つのテーマについての質問事項に関するパネルディスカッションが行われました。

【質問事項】

テーマ①:なぜ知財活動に取り組むのか?
     活動を始めたキッカケ・モチベーション
     活動をスタートしたタイミング
     複数の事業・プロダクトごとの考え方

テーマ②:知財活動を進めるための体制・仕組みは?
     AIで加速する開発スピードへの対応
     社内での仕組み、社外との連携
     トップダウン・ボトムアップ

【モデレータ】

 廣田翔平氏(日本弁理士会/グローバル・ブレイン株式会社 知財戦略部)

【登壇者】

 岩城達哉氏(株式会社estie 取締役CTO)
 鬼鞍信太朗氏(株式会社LayerX 法務知財グループ)
 佐生友行氏(株式会社HQ  VP of Engineering)
 米谷 仁矩氏(ビジョナル株式会社 管理本部 法務室 知的財産グループ マネージャー)

スタートアップ向けセミナー

 各登壇者からは、自己紹介に加え、所属企業の事業概要をお話しいただき、その後、各テーマの質問事項に関して、自社の活動内容を織り交ぜながらお話しをいただきました。

(1)テーマ①:なぜ知財活動に取り組むのか?

投資会社からの支援がきっかけとの回答が複数ありました。具体的には、ベンチャーキャピタル(VC)からの投資と支援がきっかけで活動を開始した、前職時代に培った特許への理解・経験を背景に、知財の必要性を認識し、VCからの支援を受けて活動が本格化したなど、投資を受けるタイミングが1つのきっかけとの回答がありました。また、IPO準備のため知財活動が必要との認識から開始したとするものや、ものづくりとデザインを重視する企業文化から、知財保護の必要性を認識したとする回答がありました。

・権利取得の目的としては、自社事業(ビジネス)の保護、競合対策、技術トレンドの把握、等の他、従業員(エンジニア)にとって特許は成果物の1つであることから、従業員の業務に対するモチベーションになる、といった観点も挙げられました。更に、提供するサービスの差別化戦略として活用している、取得特許をプレスリリースすることで人材採用や新規顧客獲得に活用している、グループ全体で知財活動を推進し各事業と連携した活動に繋がっている、等の話が紹介されました。

(2)テーマ②:知財活動を進めるための体制・仕組みは?

・以下の紹介がありました。開発スピードと知財活動の両立させるため、プロダクトマネージャーからのボトムアップで情報収集し、社内で特許の意義を共有し、活発な議論を促進させる、等を実践している。リソース制約との戦いとして、AIを活用して自動化できる業務は自動化し、リソースを効率的に配分させるともに、一方で、個別のコミュニケーションを重視し、信頼関係を構築している。プロダクトマネージャーや事業責任者との連携が重要であり、開発プロセスの中に知財部門を組み込んでいる。事業やプロダクトの状況に応じて知財戦略を調整している。新規事業など組織が確立していない領域から知財活動を開始し、成功事例を作っている。

・投資対効果の判断としては、自社の事業分野を意識し、長期的な視点で特許の価値を評価している、すべてのアイデアを特許化するのではなく、事業戦略上重要な領域に投資するなど、投資への重みづけ・優先付けを意識した紹介がありました。

・経営層の説得に関する話題へと質問が深堀していきました。この観点の回答として、知財活動の価値を示すには実績が重要であること、そのためには特許を取得するだけに留まらず、活用事例や事業貢献を示すことが効果的であるとの指摘がありました。

・知財活動を実践して得られた教訓としては、「商標」など、基本的な知財保護の重要性を示す事例を社内で共有すべきであること、また、スタートアップ段階から知財戦略の必要性を認識することが重要であるとの見解が示されました。

(3)質疑応答

・予算配分の判断基準に関する質問がありました。回答としては、事業戦略上の優先度と防衛的価値に基づいて判断している、あるいは、競合状況や技術の実装可能性も考慮要素としている等が挙げられました。

・経営層の説得方法の質問については、知財活動の具体的な成果を示すことが最も効果的、コスト面だけでなく、活用事例や事業貢献を明確にするとの回答がありました。

4.最後に

 VCからの支援を受けて知財活動が本格化した、などの話を聞くと、知財活動が、実際に資金調達の一助になっていることを、改めて感じさせられます。また、成長していきExitとしてIPOを意識しはじめると、今度は知財ガバナンスの観点からも、投資家(株主)を意識した活動の視点が必要になってきます。パネルディスカッションを通じて、以前から様々なニュースソースから報道等があった動向が、現場で知財活動をされている方々からの生の声として紹介されました。これらは、知財活動を本格的に進めていこうと考えるスタートアップの方々にも重要な視点であると思います。紹介があった活動内容を通じて、企業文化に根付いた草の根的な活動の重要性も再確認できたセミナーであったと感じます。

 これから知財活動を本格的にはじめることを検討されているスタートアップの方々にとっては、例えば知財の専門家である弁理士に相談することによって、活動をより効率的に進めていくことができる場合があります。日本弁理士会では、スタートアップ企業の方々を支援する取り組みを進めております。
今回のセミナーが、スタートアップ企業の方々の一助となることを願っております。

【参考サイト】

スタートアップの知財コミュニティポータルサイト IP BASE 特許庁
https://ipbase.go.jp/