事例紹介

日本リニューアル株式会社

昭和59年7月に東京都豊島区で設立された日本リニューアル株式会社は、現在、東京都武蔵野市と埼玉県新座市に拠点を構えています。同社は主に、給湯銅管からの漏水を止めるための給湯銅管対策工事、給水管の中をクリーニングしてコーティングする給水管更生工事、給水管を取り換える給水管更新工事の3つの水回り事業を行っています。
2021年12月には、同社は、給湯銅管対策工事「リ・パイプブロック工法®」に関する特許を利活用していること等を理由に、日本弁理士会主催の第8回知的財産活用表彰の知的財産活用大賞を受賞されました。「リ・パイプブロック工法®」で特許を取得された経緯や特許取得のメリットについて、同工法の生みの親である、日本リニューアル株式会社代表取締役社長 工藤秀明氏にお話を伺いました。
(※®は、登録商標であることを知らせるマークになります。)

日本リニューアル株式会社

突然の漏水から住民の暮らしを守る
日本リニューアルの独自工法「リ・パイプブロック工法®」とは

ーー「リ・パイプブロック工法®」は、漏水した給湯銅管を直す工法ですが、漏水はどのようにして起こるものなのでしょうか。

平成19年以前に建てられたマンションでは給湯管に銅管が使用されているのですが、給湯銅管の中には「ロクショウ(緑青)」と呼ばれるサビや、電気ケトルにもよくみられる「シリカスケール」と呼ばれる白く硬い汚れが付着しています。ロクショウが進んだり、シリカスケールが何かの拍子にぽろっと取れてそこに直接湯水が当たったりすることによって、給湯銅管には直径1ミリほどのピンホール(小穴)が開いてしまいます。これが漏水を引き起こす原因です。その漏水を防ぐ工法として「リ・パイプブロック工法®」を開発しました。

日本リニューアル株式会社

ーー「リ・パイプブロック工法®」とはどのような工法なのですか?

「リ・パイプブロック工法®」は、洗浄・止水・ライニングという3つの過程からなる工法です。給湯銅管に付着したロクショウやシリカスケールをまずフラッシング剤という薬剤で洗浄します。その際には、ペットボトルに水を入れて振るように、薬剤と空気を混ぜた状態で配管に流して洗浄します。これを当社では「気液混合断続洗浄」と名付けました。
次に、給湯銅管の内部に風圧をかけて、ピンホールに小さなシリコーンでできた止水ボールを送ります。そうすると、圧力を逃がすピンホールに止水ボールがピタッとおさまるのです。
止水ボールが取れないことを確認したのちに、給湯銅管の中をエポキシ樹脂でコーティングするライニングを行います。当社では、確実に銅管の漏水をシャットアウトするため、2回ライニングをする「ダブルライニング®」という特許工法を用いています。1回目は白い樹脂で、2回目は青い樹脂でコーティングします。材料も費用も時間も2倍かかりますが、その分長持ちするのが「ダブルライニング®」のメリットです。

ーーこの「リ・パイプブロック工法®」の強みは何でしょうか。

従来、漏水が起きても、見た目ではどこで漏水しているかわからないので、床板をはがしたり壁を壊したりする必要があり、その分多大な費用と時間がかかっていました。一方、当社のこの「リ・パイプブロック工法®」では、床板をはがしたり壁を壊したりする必要がないので、2日で工事が完了する上に費用も安く済みます。さらに、この「リ・パイプブロック工法®」には10年保証をつけていますので、工事終了後にもし再び漏水するようであれば、無償で再度工事を行います。しかし今のところ、約7,200件手掛けた工事のうち、再び漏水したのはたった3件のみです。

「リ・パイプブロック工法®」の開発秘話
「リ・パイプブロック工法®」はなぜできたのか

ーーそもそも、「リ・パイプブロック工法®」はどのような経緯で生まれたのでしょうか。

この工法は、私の若い頃に立ち会った漏水現場での実体験がもとになっています。当時勤めていた設備会社に、21時頃あるマンションに住む若い夫婦から電話がかかってきたんです。私以外社員がもう誰もいなかったため、私が急遽現場に向かうと、部屋の中はまるでナイアガラの滝。小さなお子さんを抱えた女性から「何とかしてください」と泣きつかれました。一方、上の階の様子を見に行ってみたところ、高齢の女性が部屋の隅で「ごめんなさい、ごめんなさい」と言いながらガタガタ震えていたのです。

日本リニューアル株式会社

ーー意図せず加害者になってしまう方も、ある意味被害者になってしまうのですね。

被害者側は火災保険で救済されますが、漏水を起こした側は自腹で修理をしなければなりません。給湯銅管からの漏水は専有部で起きるので、共有部のための費用である積立修繕費は使えないためです。給湯管に銅管が使われているマンションは日本全国に665.5万戸もあります。それだけ、ある日突然漏水が起きて精神的にも経済的にも重い負担が強いられる可能性のある人が全国にいるのです。「これ以上悲しい思いをする人がいなくなるよう、漏水対策を何とかしなければ」と思ったことが、この事業を始めるきっかけとなりました。

ーーどのようにして漏水を防ぐ方法を思いついたのでしょうか。

関東各地の現場から漏水を起こした銅管を持ち帰ってきて、毎日じっくり見比べていたんです。そうするうちに、どの地域で漏水を起こした銅管も、開いたピンホールの大きさがどれも1mm前後であることに気がつきました。調べていくうちに、ロクショウができるときに発生電流が起き、そこにお湯が流れると静電気が起きることがわかりました。「その静電気とロクショウに起因する発生電流や浸食作用によって銅管の壁に圧力がかかり、ピンホールができる」という仮説に至り、「じゃあ、この穴を埋めればいいのではないか」と思ったのです。

ーー最終的にシリコーンの止水ボールを選んだ決め手は何だったのでしょうか。

最初はコルクがよいと思ったのですが、専門家に伺ったところ、コルクはずっと水分に触れていると病気になることがあるそうで、ピンホールから抜けてしまう可能性がありました。最終的にシリコーンに行きついたのは、間違って飲み込んでも人体に害がなく温度によって物性変化しないものだったからです。
このシリコーンの止水ボールをうまくピンホールにはめるために、そこから試行錯誤が始まりました。半年に一度近所の倉庫を借りて、毎週末に銅管や機材を持ち込み、実験を始めました。成功するかどうかもわかりません。社員からは「また社長の道楽がはじまった」と言われながらも、一人で何度も実験を繰り返しました。その末に、シリコーンの止水ボールをピンホールにうまくはめる方法を編み出したのです。

日本リニューアル株式会社

知財活動の軌跡
「リ・パイプブロック工法®」で特許・商標・意匠を取得

ーー特許を取得しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。

もともと「特許を取りたい」という思いはありましたが、どうすればよいのかもわからないでいました。たまたま、2015年頃に取引先の金融機関の紹介でさいたまスーパーアリーナでの展示会にブース出展した際、目の前にあったのが日本弁理士会関東会のブースでした。そこにいらっしゃった弁理士の先生に私から声をかけたことが、特許取得のきっかけです。
後日、その弁理士の先生にお話を聞いていただき、私の話を整理した上で、その中から特許にできそうな手法をピックアップして掘り下げてくださいました。その後、特許取得の条件を満たすかどうかの調査もすべて先生にしていただきました。

ーーこの工法の中には5つの特許が入っているとのことですが、どのような特許が入っているのでしょうか。

ピンホールの開いた給湯銅管をシリコーンのボールで止水する「リ・パイプブロック工法®」、気液混合断続洗浄をするフラッシングマシン、フラッシング(洗浄)してライニングする「リ・パイプフラッシング工法®」、2重にライニングする「ダブルライニング®」、ポリエチレン管と銅管が混在している際に銅管だけをライニングする「スラッシュ工法®」の5つです。
実際に現場に足を運んだときに、給湯銅管を洗浄してピンホールが開いていればその場でふさがなければなりませんし、ポリエチレン管と銅管の混在配管になっている場合は「スラッシュ工法®」にその場で切り替えなければなりません。特に実際に漏水が起きた現場では、その場の判断が迫られます。そのためには、この5つの特許をセットで取得する必要がありました。

ーー特許を取ると技術は開示されてしまうので、陰で模倣されてしまうこともありますが、実際に営業するときに「こういった工法が使えます」と言えるのは日本リニューアル様だけです。積極的な宣伝広告は特許を取っているからこそできることですね。

特許は大きな力になっています。あと、弁理士の先生からアドバイスをいただき、商標登録も行いました。たとえばフラッシングしてライニングする工法を「フラッシュ・ライニング工事®」と私が命名して商標登録しました。当社の社名「日本リニューアル株式会社®」も「リ・パイプブロック工法®」も商標登録したので、他社には使えません。ですから、社名も工法もひとつのブランドとして全面的に出していくことで、模倣を防ぐ抑止力となっていると感じています。

ーーただ、貴社のテクニカルセンターでは、マンション管理組合の方や記者の方など、外部の方に積極的に特許技術を開示していらっしゃいます。知的財産の管理はどのようにされているのでしょうか。

私も最初は外部の方に見せてよいか迷いがありました。しかし、あるお客様から「目の前でリ・パイプブロック工法®を見てみたい」と言われて目の前で実演したところ、大いに感動され、「これはぜひともみんなに見せるべきだ」と強く言われたんです。その言葉に、「もうこれはオープンにしよう」と心に決めました。特許で守られているからこそ「真似されることがあれば、そのときは闘おう」と腹をくくることができたんです。

日本リニューアル株式会社

弁理士に期待することは
特許の社会的地位を向上させたい

ーー弁理士に対して今後期待されることは?

特許の社会的地位をもっと向上させることです。設備工事業者の中には、他社の技術を勝手に真似したり、他社と似た宣伝文句で営業活動をしたりしている業者もいます。また、明らかに特許が取れそうにないものを出願して「特許出願中」と宣伝している業者もいます。特許を取った方々は並々ならぬ努力をされて取っているのだから、比較対象になったり利用されたりするのではなく、やはりきちんとした権利として守られるべきだと思うんです。そうすることで、特許の社会的地位をもっとアップしていただきたいなと思っています。

ーー中小企業にとっては、特許技術を勝手に真似されることは死活問題にかかわりますから、大切なことですね。

私はよく金融機関の方やお客様に「工藤社長はどうしてこの工法の開発にのめり込んでいるんですか」と聞かれます。理由は簡単で、今後日本の人口は減少していく中で、建物を新築するのではなく、改修して維持するほうに目を向ける必要があると考えているからです。そのために、産業の力や知恵を結集させて建築物を守っていかなければなりません。ただ、改修は手間も費用もかかります。それでも改修工事に取り組むのは、ひとえに「建物を維持するお手伝いをすることで人々の生活を守りたい」という正義感があるからこそなんです。
マンションにお住まいの方は、30年も40年もローンを組んで、修繕積立金や駐車場代も払いながらローンを返済していきます。ローンの返済がやっと終わる頃になって、漏水が起きてまた費用が何百万も発生するようでは目も当てられません。そんなことをなくすために、我々のような正義感を持った改修工事の専門家がもっと増えていかなければならないと考えています。

ーー「漏水で悲しい思いをする人を減らしたい」という工藤社長の正義感がひしひしと伝わるお話でした。この度はお忙しい中、取材にご協力いただきありがとうございました。

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