事例紹介

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社

2017年5月に設立されたピクシーダストテクノロジーズ株式会社は、水道橋に拠点を構えています。筑波大学准教授の落合陽一氏が創業した同社は、大学発ベンチャーの先駆けとして、落合氏の知名度と共に注目を集めています。
同社は特許を保有する超音波技術を活用したヘアケアデバイス「SonoRepro(ソノリプロ)®」、音響メタマテリアル技術を応用した透明吸音パネル「iwasemi(イワセミ)®」など、さまざまなプロダクトを開発。令和4年度知的財産権制度活用優良企業等表彰 知財功労賞 経済産業大臣表彰を受賞するなど、知財業界でも注目を集めています。
同社独特の知財の活用法等について、同社事業本部IP&Legal Functionにおいてリーダーの木本大介弁理士にお話を伺いました。
(※®は、登録商標であることを知らせるマークになります。)

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社

大学発の研究を製品化へ結びつける
「音」を生活に活かす

ーー御社の代表的なプロダクトである「SonoRepro®」は、どのようにして生まれたのでしょうか。

SonoRepro®は大企業とのオープンイノベーションによって生まれた製品です。超音波で細胞を活性化させ、発毛を促すという技術を用いています。もともと、弊社は、超音波技術を様々な分野に応用しようと考えていまして、スカルプケアの領域でも何か一緒にやってみようという話から製品化にこぎ着けています。

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社

ーーSonoRepro®の特長を教えてください。

SonoRepro®は、超音波を頭皮に照射することで、非接触方式でスカルプケアを行うもので、接触方式でスカルプケアを行うもの(いわゆる頭皮マッサージ機器)とは異なります。超音波によって細胞を機能的に刺激します。

ーーもう1点のプロダクト「iwasemi®」の誕生についても教えてください。

iwasemi®は、弊社が要素技術を持ったプロダクトです。その中の第一弾商品である「iwasemi® HX-α」も、大企業とのオープンイノベーションにより生まれました。最近、デザイン性を重視したガラス貼りの会議室をよく見かけますが、内部で音が反響してオンラインミーティングがしにくいという問題がありました。そこで、ガラスに貼ってもデザイン性を阻害しない吸音材というコンセプトの商品「iwasemi® HX-α」を開発しました。

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社

ーーiwasemi® HX-αの特長を教えてください。

六角形の本体に、音が入り込む穴を空けた6つの部屋を設け、それぞれの部屋の中で音同士を相殺させています。本体が透明かつ部屋の形がすべて違うのはデザイン性を重視したためで、弊社代表の落合のこだわりが詰まっています。ガラスの硬い質感を残さないと、ガラスに貼れる吸音材とは呼べません。見た目を気にしないなら非透明な吸音材(既製品)を貼ればいいという話になってしまいますので。透明かつ硬い質感、そしてカラーバリエーションを持たせることでデザイン性と吸音性能を両立させています。
部屋に空けている穴の大きさや数はそれぞれ違いますが、これは部屋の形や大きさによって異なる反響の特性に応じて設計されています。 六角形の頂点を中心からずらして6つの部屋の形や大きさを異ならせることは、製品のデザイン性を高めると同時に、幅広い周波数帯域の音を吸音するという機能性の向上にも寄与しています。

ーーどちらも音や超音波に関する技術を用いています。御社が最も得意としているのが音響技術なのでしょうか。

たしかに、2つのプロダクトのベースにあるのは、筑波大学の落合研究室から生まれた音響技術です。SonoRepro®には、社名の由来となった超音波で発泡スチロールの粒を浮かせる「Pixie Dust(ピクシーダスト)®」と同じ、超音波技術が使われています。iwasemi®には、当初は音圧を上げるために検討していたメタマテリアル技術を、音圧を下げる方向に応用しています。
とはいえ、弊社は音響技術専業の会社ではありません。むしろ、音響技術が全く出てこないプロダクトのほうが多いくらいです。社内にはR&D(研究開発)部隊があり、社会的に意義や意味があるテーマを見つけて、論文等の公知情報にアクセスして、ゼロから勉強して作ることも珍しくありません。

知財活動の軌跡
事業部に近い位置で知財から契約まですべてを管轄

ーー御社と木本さんの関係について教えてください。どういった流れで社内弁理士としてジョインすることになったのでしょうか。

弊社は2017年5月に創業した企業で、落合と村上が共同で代表を務めています。創業の1カ月前の4月に、私の知人の紹介で、落合から出願の相談を受けました。その後、シリーズAで資金調達をした後に顧問契約を結んでいます。
落合と村上は当時から知財に関する感度が非常に高く、会社を急成長させるためにはとにかく知財だ、という姿勢に魅力を感じていたこともあり、2018年5月に正式にジョインしました。創業前から関与していたという意味では、経営者を除くと私が一番の古株です。正社員としては4人目だったと思います。

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社

ーーそれほど早い段階で弁理士を入れるのはかなり珍しいケースに思えます。弁護士よりも先に弁理士がジョインしたわけですが、社内ではどのような役割を担ったのでしょうか。

特許、商標、意匠といった知財だけでなく、契約も見ています。弊社はピクシーダストテクノロジーズという会社の中に小さなスタートアップがたくさんあるような体制になっています。スタートアップAがSonoRepro®を販売し、スタートアップBがiwasemi®を販売する、というように、複数のスタートアップ(社内では「チーム」と呼んでいます)が同時多発的に事業を進行させます。それらのチームの知財と契約を同時に管理しながら、すべてのチームのプロダクトを競争優位にする。それが、弊社の知財部門のミッションです。
これはスタートアップのインハウスの弁理士だからこその動き方であるといえます。事務所に所属していたときは複数のスタートアップが顧客にいたとしても、各スタートアップは独立していたのですが、今は、各スタートアップが同じ会社の中にいるので、例えば、あるスタートアップが要素技術を権利化した場合、その権利を他のスタートアップに無償ライセンスすることができるわけです。現在の体制としては、一人の知財担当が3つ前後のチームを見る形で進めています。
また、ここで言う契約は知財契約だけでなく、業務委託や広告宣伝、パート採用などの契約も含んでいます。勉強の毎日です。

ーー担当範囲が非常に広範囲に渡りますが、そこまで手を広げた理由はあるのでしょうか。

事業の最新情報をリアルタイムでキャッチアップしたい、というのが大きな理由です。知財と聞くと「特許でしょ?」と先入観を持たれやすい側面があります。この場合、事業部門が特許の話ではないと認識した時点で、知財部門に声がかかりません。そのため、契約の時点では特許の必要性を認識しないまま展示会に出されていた、ということにもなりかねません。しかし、契約の時点から関わっておけば、「展示会に出展したい」という話をキャッチアップすることができます。そうなると、展示会に出展する前に特許を押さえよう、と気づけますよね。「展示会に出展する前は知財部門にご相談下さい」とアナウンスするよりよっぽど効果的です。

ーー契約を抑えておくことで、いち早く問題点やニーズに気づけるようになると。

そうですね。ですので、少しでも事業部に近い位置で動くことが大切だと思っています。もともと、弊社の知財部門は管理部門に置かれていましたが、その後、事業部門に異動しました。これも、事業の最新情報をリアルタイムにキャッチアップするためです。
私は、知財部門というよりも、無形資産部門という意識で仕事をしています。知財という枠組みではどんどん閉鎖的になってしまうという危機感がありますので、知財より広義の「無形資産」という捉え方で価値提供するために必要なことはすべてやる、と考えています。

弁理士に期待することは
知財から契約まですべてを見られる無形資産マンへ

ーーまだまだ知財部門を持たない中小企業は多く、大企業でもすべてに備わっているわけではありません。弁理士に頼るべき企業、頼るべきタイミングはどのようにお考えでしょうか。

一桁億円台の資金調達をしたら、少なくとも特許事務所とのパイプをつくったほうがいいと思いますね。その後は、「調達した資金をどう使っていくか」というフェーズに入ると思いますので、専門家の知見が必要になるからです。
もちろん、調達前から接触しておくにこしたことはありません。弊社の場合も私への最初の接触は調達前でした。早い方が、調達後に迅速に動き出すことができますし、調達前でも出願や契約の相談は発生するはずです。調達前に1件でいいから要素技術やコンセプトレベルの特許を1件でも出せるなら、その方が好ましいことは言うまでもありません。
遅くとも、シリーズAである程度の資金が入ってきたとき(又はその見込が立ったとき)がひとつの目安なのではないでしょうか。

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社

ーー弁理士である木本さんのお立場から、弁理士を取り巻く環境について何か感じるものはありますか?

最近私はスタートアップのインハウス弁理士や大企業の知財部門にいた知り合いなどと、コミュニティをつくっているのですが、弁理士のニーズが増えているという話は耳にしますね。私のように、創業初期に入った方はまだ少ないですが、人材流動のベクトルはスタートアップ寄りになってきたと感じています。事務所でスタートアップの顧問をやりながらそこにジョインされたり、副業でコミットされている方も増えているように感じます。
岸田政権がスタートアップに注力するという話もありますので、弁理士によるスタートアップへのコミットメントのニーズは今後も高まると思います。

ーー今後、弁理士に対して期待されるポイントはありますか?

先ほどの話にも繋がりますが、契約への関わりを強めていくことです。事業活動には必ず契約が介在します。極論を言えば、発明やブランドがなくても事業は進みますので、必ずしも特許や商標の出願は必須ではありません。でも、契約は必須です。特に、多くのスタートアップが避けては通れないオープンイノベーションでは、契約→事業活動→知財創出→権利化、というフローになるので、最後の権利化のところで待っているだけではスタートアップの課題解決には至りません。
依頼された通りに出願するだけでなく、特許の出願から契約にさかのぼり、契約から事業計画にさかのぼり、上流からコントロールする(デレクション型の)人のニーズが増えると思っていますし、そのニーズに応える弁理士が増えたらいいと思っています。もちろん、契約までカバーしようと思うと、弁護士との連携も重要になると思います。もっと契約と出願の仕事が繋がると、スタートアップにとってありがたい状況になると思います。私はこれを知財から契約まですべてを見られる「無形資産マン」と捉えています。

ーー特許出願に留まらない、弁理士の可能性を教えていただきました。この度はお忙しい中、取材にご協力いただきありがとうございました。

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