事例紹介

株式会社Matchbox Technologies

近年、短時間・単発で働く雇用形態であるスポットワークについて、働き手と職場をマッチングする仕組みが多数台頭しています。このような中、株式会社 Matchbox マッチボックスTechnologiesテクノロジーズは、組織が自前で労働力を確保する「セルフソーシング」を核とした人材マッチングプラットフォームを構築し、「マッチボックス」というスポットワーク運用システムとして企業や自治体に提供しています。

同社はビジネス立ち上げ当初から知財の重要性を強く認識し、自社の独自性を守るために一連の特許を取得しながら、テクノロジーを活用して人材管理や人事業務を効率的に行うHRテック分野において、ビジネスを成長させています。知財を重視する同社の経営が注目され、代表取締役CEOの佐藤さとう洋彰ひろあき氏は、令和4年度弁理士の日記念式典のパネルディスカッション「スタートアップ×知財 ~成功の秘訣!~」にパネリストとして登壇もされています。そんな同社にお邪魔し、佐藤氏と取締役CIPO(知的財産最高責任者)で弁理士の安高あたか史朗しろう氏に、同社の知財戦略やビジネスモデル、スタートアップ企業における知財の重要性などを中心にお話を伺いました。

コンビニ経営の現場ニーズから生まれた「マッチボックス」

ーーはじめに、御社の成り立ちについて教えてください。

我が社の始まりは新潟県内で始めたコンビニエンスストアに遡ります。私自身は静岡県裾野市出身で、幼少期をアメリカで過ごし、再び静岡へ戻った後東京の中央大学へ進学し、新潟の有力実業家の池田いけだひろむ氏と知り合いました。起業を志望していた私に、池田氏が「新潟で起業するなら応援するよ」と言ってくださり、新潟で起業することになったのです。

そして2004年に株式会社Fusion’zを設立し、新潟県せいろうまちでローソンのフランチャイズ店の経営を始めました。株式会社Fusion’zによるコンビニ経営は順調に進み、40以上の店舗を運営する日本最大のローソンフランチャイジーになりました。

しかし、ローソンの多店舗経営を始めた頃から、店舗スタッフの人材不足という課題に直面しました。さらに、人手不足に苦しんでいるのは自分たちだけではなく、他のフランチャイジーも同様であることに気づきました。そこで2014年にローソンと共同でローソンスタッフ株式会社を設立し、ローソン加盟店に対し人材提供サービスを開始しました。

熟練スタッフを貯める「セルフソーシング」と、コンビニオーナー間でシェアするというアイデア

このローソンスタッフ株式会社の仕事は加盟店のためのパート・アルバイトの募集やスタッフの派遣です。ところがその仕事を全国レベルに広げていったところ、コンビニスタッフには熟練度を上げるために研修を受けてもらう必要があるため、スタッフをその研修センターの近くにあるお店にしか派遣できないという課題にぶつかりました。そこで、熟練度が備わったスタッフをデータベースに登録して、店舗オーナーがアクセスできる仕組みをアプリで提供できないかと考えたのです。さらに、コンビニの勤務経験があるOBやOGもデータベースに登録し、人手の必要なときに店舗オーナーがコンタクトできるようにすれば人手不足解消に繋がる。しかも、勤怠管理や給与計算も併せて提供すればさらに便利になる。そうした機能もセットにしたシステムを提供しようと思いついたのです。

核となるのは、スタッフをデータベースに貯めて活用する「セルフソーシング」と、「熟練スタッフをコンビニオーナー間でシェアする」仕組みのアイデアです。コンビニエンスストア業界では、アルバイトスタッフや若手社員の入れ替わりが激しく、他業種と比べてもスタッフが早期に職場を離職するとされています。そういった方々をストックしてシステムでマッチングできるようになれば大変便利です。

この「コンビニオーナー間のシェア」というアイデアは、一見したところ素晴らしいと思えたのですが、実践してみると困難が伴いました。最大の困難は、コンビニオーナーが自分の店のOBやOGを囲い込みたがり、他店とのシェアが進みにくいことでした。そこでプライベートな人材データベース(内部)と一般的な人材市場(外部)とを並存させてどちらからも選択して採用可能とする「内外掲載」という仕組みを発案し、特許を取得しました。

ーーなぜ新しいアイデアを特許で保護しようと思ったのですか。

シンプルに「しっかりとしたシステム」を作りたかったからです。他社による模倣などの外部の雑音に惑わされることなく、価格競争に巻き込まれて資金調達に奔走することもなく、開発に集中する環境と時間が欲しかったのです。そのためにはどうすればよいか。ものづくりでの特許は多いから、HRテックでも同様にできるのではないか、行きついた先が特許でした。まず特許でアイデアをプロテクトしてしまえば、その後しっかりとしたシステム作りに取り組む時間を確保できると考えました。

知財のプロ、安高弁理士との出会い

ーー安高弁理士とはどのような経緯で出会われたのですか。

従業員の紹介です。私と年齢も近く、HRテックに非常に詳しいということで紹介していただきました。特許庁での審査のご経験もあり、キャリアも素晴らしい。すぐにコンタクトを取り、地方発の、資本も限られた小さな会社がどうすればビジネスモデルを守れるのか、思いの丈を安高さんにぶつけました。

(安高弁理士)「マッチボックス」のアイデアを聞いたとき、「これは伸びるな」と思いました。理解しづらい部分はあったにせよ、聞けば聞くほど面白いと思いました。当初は、内部と外部の二重構造の仕組みや、採用するスタッフの雇用形態や所得区分などによる給与計算のパーソナライズ化などでの特許化は難しいと考えたりもしましたが、いずれも特許を取得しています。

知財戦略~10年後を見据えて

ーー知財戦略について、特許出願に対する考えを教えてください。

我々は「他社を見ず、我が社の未来と現場の課題を見る」ことを大切にしています。これは知財戦略においても同じです。今ではなく、10年後の日本がどうなっているかを考える。他社が何をしているかは気にせず、自分たちが見据えた未来に向けての課題を見つけ、解決する。それを逆算した結果として特許を取得してゆくというスタンスです。

ーー特許や商標の出願について、例えば「出願できるものは、すべて出願する」といった方針などはありますか。

基本的には、私たちのビジネスモデルの中核である「セルフソーシング」と、それと対になる「スポットワーク」の、2つのコアに関連する特許については積極的に出願を検討します。しかし、それらと関連性が低いものについては基本的に後回しにしています。商標についても、同じ考え方から必要なもののみ権利を取得しています。

ーー特許出願すると決まった後、実際に出願するまでどのように進めていますか。

まず「これのどこが特許なのか?」ということを整理します。ですが、アイデアをイメージにしたり、文字化したりすることは非常に難しく、毎回苦労します。請求項1が特許の核となる最も重要なところですが、事業内容を深く理解し、要諦を掴まないとアイデアを請求項1に落とし込むことはできません。安高さんには定例の経営会議にも参加してもらい、開発担当のみならず、営業・マーケティング・事業責任者も交えて議論し、その多くの情報の中からエッセンスを特許出願にまとめ上げていただき、ようやく出願に至ります。話は逸れますが、特許を音楽に例えるのであれば、特許出願における知財のプロは、粗削りの状態で作曲された音楽を、無駄なく美しく構成してくれる編曲者だと思います。

ーー特許の早期審査制度を多く利用されているようですが、これも知財戦略のひとつでしょうか。

そうですね。なんといってもスピーディーに白黒をつけられますので、大変助かっています。我々は自治体にもシステムを提供していますが、特に、自治体に対して特許が成立したという結論を速やかに伝えられるので、利用するメリットは大きいです。

ーー海外における知財戦略について教えてください。

ビジネスモデルそのものが重要視されるアメリカ、ヨーロッパ、中国などにおいては、コアな特許は出願済みです。まず国内で特許を取得し、その後各国での重要性を検討し、必要に応じて出願をしています。

将来的には、少子高齢化が世界一進んでいると言われている日本でビジネスモデルを磨き上げ、それを他国へ、同じように少子化の問題を抱えている国へ輸出したいと思っています。例えば、新幹線を輸出するのに、車両だけでなくシステム全体をセットにして輸出する「日本モデル」がありますが、それと同じようなスキームが採れるといいですね。

ーー取得済み特許をホームページで公開されておられますが、それにより御社の特許戦術がわかってしまうことはないのでしょうか。

ホームページで公開している特許はあくまでも取得済みのもので、それらを公開しているのは、権利侵害のトラブルを未然に防ぐためです。もし類似のシステムを開発している人がいた場合に、わが社はすでにこういう特許権を持っていますよというメッセージを伝えることができます。

ーー御社の直接的な競合企業はどこでしょうか。

表面的な競合はスポットワークのサービスを提供している各社さんですが、直接的に競合しているとは考えていません。スポットワークのサービスの多くは、組織外の「外部人材」をスポット・短期でマッチングしています。一方、「マッチボックス」は、外部人材を組織内の「内部人材」として蓄積し、マッチングするのが主な機能だからです。また現在多くの求人情報サイトがありますが、これらは基本的には散在している情報を集める「アグリゲーションサイト」で、こちらも提供しているサービスと機能が違っていますので、競合ではありません。競合はしませんが、これらの外部サイトを経由して自社の人材データを蓄積することができたり、これらへのアクセスが増えることで、結果的に我々へのアクセスも増えることはあると思います。

ーー競合からの競争優位性を確保するために、知財はどの程度役立っているとお考えですか。

非常に役立っており我々に欠かせない存在です。これまでに何の特許も取得していない状況を想像すると恐ろしいです。特許によるプロテクションがなければ、資本で勝負するか、見た目や操作性といった周辺のところで勝負するかしかなくなってしまいます。となると、より多くの資金調達に迫られたり、経営上の選択肢がより狭められていたでしょうし、スピード経営を強いられていたかもしれません。

「自治体マッチボックス」について

ーー御社は企業だけでなく、自治体にも人材マッチングサービスを提供しておられます。その「自治体マッチボックス」について教えてください。

簡単に言うと「自治体が主体のスポットワーク版ハローワークのような取組み」です。全国には約1,700の自治体がある一方で、ハローワークは全国で約500拠点となっており、地域の実情に応じたきめ細かな支援をこれまで以上に広げていくのは、負担が大きいかと思います。スポットワーカーの数が約3,500万人に増加している中で、それぞれの自治体がスポットワークを提供できる仕組みをクラウドベースで提供することで、ハローワークの負担軽減に貢献したいと考えています。

「自治体マッチボックス」が始まったきっかけのひとつが、2021年5月に「J-Startup NIIGATA」の選定企業に選出されたことです。「J-Startup NIIGATA」とは、経済産業省が2018 年に開始したJ-Startupプログラムの地域版として、新潟発のロールモデルとなるスタートアップ企業を、官民連携により集中的に支援する仕組みです。この時、新潟県湯沢町のご担当者から「町が提供するスポットワークって、できると思いますか?」というお問い合わせをいただいたのです。もちろん私の答えは「できます」。こうして2022年3月に「自治体マッチボックス」の最初のプロジェクトが立ち上がり、4か月後の7月には「ゆざわマッチボックス」が完成し、サービスリリースとなりました。

するとありがたいことに、「ゆざわマッチボックス」をご覧になった近隣の自治体の方から、次々とお問い合わせをいただくようになり、これまでに合計で59の府県や市町村にそれぞれの「○○マッチボックス」を提供させていただいています。また、それだけでなく、ホームページのデザインや、それぞれの課題に応じた取り組みを支援するなど、それぞれの自治体に合わせた地域活性化の取り組みのお手伝いもさせていただいています。

ーー「自治体マッチボックス」に関して、知財について配慮した点はありますか。

基本的に、自治体向けも企業向けと同じですが、地域間データ連携など、「自治体マッチボックス」で用いられる技術の特許を取得した例はあります。これらは、自治体に対するアピールという点で有効に機能しています。

今後の知財戦略

ーー今後の知財戦略について教えてください。

今後も企業、自治体、そして働く人が楽になるような仕組みやサービスを考え出し、世に出していきたいです。今から10年後の日本社会では、どんなに小さな自治体でも、どんなにへき地でも、求職者がその町の「自治体マッチボックス」から求人情報を入手するようになっているはずです。民間企業でもそれぞれの「マッチボックス」を提供し、就労機会を提供する。「マッチボックス」が企業や自治体の公式LINEのような役割を果たすようになる。そのための技術やアイデアについては、どんどん特許を取得していきたいと考えています。

「資金調達の前に知財保護を」これから起業する人へのアドバイス

ーー佐藤CEOは、幸運にも安高弁理士という知財のプロに巡り合うことができたのですが、そうでない方はどうすればいいでしょうか。

良い知財のパートナーに巡り合うまで、ひたすら「探し続ける」しかありません。そのためには、自分自身で知財に関する勉強をして、知識を深める必要があります。実は安高さんには最初無理だと断られたのです。でもどうしても特許が必要だと思ったので、知財を勉強し、プレゼンの方法も変えて再度お願いしたところ、ようやく理解してもらえたという経緯があります。

世の多くのスタートアップ企業は、資金調達を先行してしまいがちです。ですが、資金調達において勝負をするとなると、小規模の企業や、地方の企業などは不利です。それよりも特許を取ることを考えるべきです。特許出願して審査を受けることで特許として認められる程度のアイデアなのかを判断できますし、自分たちの技術が対象とする市場において通用するのか、その可能性を知る手がかりにもなります。それゆえ、スタートアップ企業は資金調達をする前に、自分たちのアイデアや技術などが特許足りうる程度なのかを見極めてくれる知財のパートナーを確保しておくことが重要です。

ーー最後に、これから起業する人に向けてアドバイスをお願いします。

スタートアップ企業は知財戦略を先行して経営すべきです。IT関連など知財が経営に直接関係する領域であればなおさらです。世にはビジネスモデル特許の存在を知らないまま巨額の資金調達をしている経営者も存在します。そういうケースにおいては、競合が登場しビジネスモデルを模倣されて市場を奪われたり、単価の値下げプレッシャーを受けたりしています。しかし、知財のプロをパートナーに持つことで、事業立ち上げの早期の段階から非常に強力な武器を手にすることができます。起業を目指す人に対しては、資金調達よりも先に知財のパートナーを確保することをアドバイスしたいですね。