事例紹介

株式会社サトー

自動認識ソリューションのパイオニアとして、さまざまな現場の課題を解決し続ける株式会社サトー。創業以来の社是「あくなき創造」のもと、開発部門にとどまらず、全社員が参加する独自の知財文化を育んできました。日々の気づきを発明につなげる仕組みや、特許・意匠を適切に使い分ける権利化の取り組みを通じて、知財を事業の力へと変えています。 そんな同社の創業100周年に向けた知財変革や社会貢献活動をはじめ、弁理士を単なる代理人ではなく事業の未来を描く「真のパートナー」と捉え、外部の専門家とともに知財戦略を推進する同社ならではの活用法について、知的財産部 鵜(う)篭(ごもり)芳直氏、長澤大輔氏、彭(ぽん)雅嫻(やしぇん)氏にお話を伺いました。

株式会社サトー

「あくなき創造」で現場を変革する自動認識のパイオニア

ーーまずは御社の事業概要と、これまでの歩みについてお聞かせください。

当社は1940年創業で、ラベルプリンター、シール・ラベルのメーカーとして現在90以上の国・地域で事業を展開しています。単に機器を製造・販売するだけでなく、現場の課題を解決する自動認識ソリューション企業としての価値提供を軸としており、プリンターやハンドラベラーなどの自社製品を強固な基盤としながら、高度なソリューションを展開しています。

当社の事業を一言で表すと「タギング」です。当社は自動認識ソリューションのパイオニアとして、モノや人に情報を付与し、その情報をつないで活用することで、あらゆる産業の現場におけるモノや人の流れを支える仕組みを提供しています。例えば、ネット通販で届く荷物には、送り先や商品情報などが記されたラベルが貼られています。その情報を正確に読み取ることで、荷物の仕分けや配送をスムーズに行うことができます。こうした「情報を付ける、読み取る、つなぐ、活用する」という一連の仕組みがタギングです。当社ではその手段として、ラベルやRFIDタグ、プリンター、ソフトウェアなど、多角的な製品・技術を最適に組み合わせ、お客様一人ひとりの現場課題に寄り添ったトータルソリューションを提供しています。

1980年代には、世界初となる熱転写式バーコードプリンター「M-2311」を発売しました。当社はPOSの普及を見据え、商品にバーコードを付けてPOSレジで管理する仕組みをいち早く提案し、業界全体のシステム化の流れを生み出しました。単なるハードウェアの提供にとどまらず、仕組みそのものを提案するソリューションプロバイダーへの躍進を果たしたこの出来事は、当社にとって第二創業ともいえる大きな転機でした。その後も時代とともに、ソフトウェア領域や、タグ周辺の環境を捉えるセンシング技術などソリューションの幅を広げ、創業100周年という未来を見据えた持続的な進化を続けてまいりました。

バーコードプリンター

ーーそうした歩みを経て、現在の具体的な事業展開や強み、そしてそれらの進化を支える御社の理念や文化についてお聞かせいただけますか。

現在は、確かなメーカー品質を誇るハードウェアとラベル「純正Ⓡ」によるリカーリングビジネス(継続的な製品・サービスの提供モデル)を基盤としつつ、現場の運用に踏み込んだソフトウェア、ソリューション、保守・サポートまでを一体となって提供するソリューション事業を幅広く展開しています。事業領域も、マニュファクチャリング、ロジスティクス、フード、リテール、ヘルスケア、公共など多岐にわたり、特定の業界の景気に左右されにくい強固な事業構造を確立しています。(Ⓡは、登録商標であることを知らせるマークになります。)

また、単に製品を納入する「箱売り」ではなく、お客様の現場に入り込み、本質的な課題を特定して解決へと導く提案力——当社が「現場力」と呼ぶこのアプローチこそが、ソリューション企業としての最大の強みであり、多くのお客様から高い評価をいただいています。さらに、物流分野をはじめ生産から消費者までを網羅する「カバレッジ」、現場のあらゆる情報をつないで最適なシステムを構築する「インテグレーション」、そして止まらない現場を支える「メンテナンス」。これらを包括的かつワンストップで提供できる体制こそが、他社には真似のできない当社の競争優位性です。

こうしたプロダクトメーカーからソリューション企業への進化と、日々のイノベーションを支えているのが、創業者が1940年に定めた社是「あくなき創造」です。お客様に喜んでいただける新たな価値を創造することを日々の活動の基本とし、知財活動もこの理念を体現する重要な取り組みと位置付けています。

また、社内には「あくなき創造をたたえ表彰する式典」を設け、成果だけでなく、現場の課題解決に向けたプロセスや挑戦そのものをたたえる文化が根付いています。 1940年の創業以来、ハンドラベラーからバーコードプリンター、そして高度なソフトウェアやセンシングを用いたソリューションへと事業領域を広げてまいりましたが、「モノや人を情報でつないで現場の課題を解決する」という軸は一貫しています。これからもメーカーとしての真摯なものづくりと、ソリューション企業としての提案力を両輪としながら、次の節目である100周年、そしてその先の未来へ向けた挑戦を続けていきます。

創造の小径

全社員が知財に関わる独自の企業文化と強固な権利化プロセス

ーー知財の取り組みについて伺います。御社の発明に対する考え方や想いをお聞かせください。

創業者の佐藤陽は、当時、中小企業が市場を開拓しても大企業が参入するとあっという間に駆逐されてしまう状況を目の当たりにし、「自分たちを守る手段は特許だ」という強い信念を持っていました。そのため、創業当初に手掛けた「仕組籠」や「自動結束機」、その後の「ハンドラベラー」などの製品について積極的に特許を出願・権利化し、ハンドラベラーだけでも国内外を合わせて500件以上の特許を取得いたしました。創業者は特許明細書も他人に任せることなく自ら筆を執って作成しており、社内には当時の自筆スケッチや特許公報を今も展示して、創業時の発明、そして知財に対する熱い想いを現在へと引き継いでいます。

こうした知財に対する価値観は、創業以来、現在まで受け継がれています。創業者自らが執筆した「サトーの教育書」の「特許編」には、「サトーを守る手段」として特許の権利取得に心血を注いだ想いが記されています。また、2代目社長がまとめた「サトーのこころ」にも知財に関する考え方が記されており、現場でお客様の実利につながる創意工夫から、数多くの知財を生み出すことの重要性が示されています。

その考え方を象徴するのが「全社員参加の知財活動」です。知財を生み出すのは研究開発部門だけではありません。営業、製造、サービスなど、全社員が日々の仕事の中で生み出しているアイデアや工夫そのものが、知財の源泉になるという考え方です。 当社が重視しているのは、必ずしも最先端の技術を生み出すことだけではありません。お客様が現場で何に困っているのかを捉え、既存の技術と技術を組み合わせることで、どのような価値を提供できるのかを考えることを大切にしています。たとえ技術的に「ものすごく尖った発明」でなくても、現場の課題を解決し、お客様に新しい価値を提供できるのであれば、それを発明として捉え、特許として権利化していく。そこに当社の知財活動の特徴があります。

当時の自筆スケッチや特許公報の展示

ーーお話の中に出てきた「全社員参加の知財活動」について、具体的に教えていただけますか。

当社における知財活動の強みは、開発部門にとどまらず全社員が参加する企業風土と、それを支える仕組みにあります。先にも述べたように、社内には古くから「知財は大事だ」という共通認識が定着しており、知財部門による地道な啓発活動や発明表彰式の開催を通じて、「誰でも発明者になれる」という意識が一つの企業文化として浸透しています。全国の営業部門に対しても、会議の場を活用して具体的な出願事例を共有することで、現場からの知財相談や提案を引き出す体制を整えています。

この取り組みは、近年重要性が増しているソリューションに関する発明の創出において、大きな成果を上げています。機器本体の開発は研究開発部門が担う一方、例えばリストバンドの照合システムといった現場に密着した運用上の課題については、営業社員が起点となり、お客様の課題をいち早く捉えて発明提案へとつなげていくことが、当社の大きな強みです。 技術部門だけでなく、より現場に近い営業部門が発明の起点となることで、お客様が抱える課題を迅速に捉え、解決策を発明として形にすることができます。こうした現場発の知財活動によって、他社に先駆けて現場の課題を解決し、迅速に権利化を進めることで、業界全体に共通する課題に対しても、自社の優位性を守る「盾」を築くことができます。

こうした全社的な知財文化の土台となっているのが、今年で50周年を迎えた「三行提報(さんぎょうていほう)」という伝統的な制度です。これは、社長を除く全社員が、毎日100~150文字で「会社を良くする創意・くふう・気付いた事の提案や考えと、その対策の報告」を提出するもので、社員一人ひとりが日常的に「自ら考える」ことを促す仕組みとなっています。提出された内容は経営陣が直接確認し、迅速な改善につなげられるほか、社内から検索・閲覧することもできます。 知財部門では、この膨大な蓄積の中から「特許」などのキーワードで検索し、現場に埋もれている発明の原石を掘り起こしています。そこから新たな知的財産権につながるアイデアを見出すだけでなく、知財に関するイベントや施策を考える際のヒントとしても活用しています。日々の小さな気づきや工夫を全社で共有し、それを知財へとつなげていく——「三行提報」は、そんな当社の知財活動を支える重要な基盤の一つだといえます。

鵜篭芳直氏

ーーここまでは特許を中心に伺ってきましたが、製品や事業を多角的に守るうえでは「意匠権」の活用も重要かと思います。特許との連携や具体的な防衛策の狙いについてお聞かせください。

当社における意匠権の活用は、特許権を補完し、製品をより強固に保護するための戦略的手段として位置付けられています。出願に際しては、開発者からの提案だけでなく、知財部門が開発の初期段階から介入し、対話を通じて特許と意匠の最適な組み合わせを切り分けています。新製品の開発時には特許と意匠をセットで出願する意識が定着しており、両部門が密に連携する体制が整っています。

意匠権の主な役割は、特許での権利化が困難な技術や形状の保護です。権利範囲が狭くとも悪質な模倣を防ぐ手段として有効活用されているほか、消耗品やパーツの接続部分を「部分意匠」として権利化し、非純正品の流通を牽制する対策にも用いられています。さらに、画面デザインやアイコンといった近年の新しい意匠制度についても、自社ビジネスにおける具体的なメリットや活用の方向性を模索しています。

弁理士という頼れるパートナーとともに事業の未来を描く

ーー事業や組織の変革を進める一方で、地域社会への貢献や子どもたちへの支援など、社外に向けたサステナビリティ活動にも知財部門が積極的に関わられていると伺いました。こうした取り組みの背景や狙いについて教えていただけますか。

当社は公益社団法人発明協会の「青少年創造性開発育成事業」に協賛しており、子どもたちに技術や発明への関心を持っていただくための支援活動を推進しています。その一環として、特許庁の事業や地域との連携を通じ、港区立みなと科学館と共同で実施した当社での体験プログラムや、全日本学生児童発明くふう展における科学技術館での体験企画など、子どもたちを招いた技術や知財に関するワークショップを実施いたしました。

こうした取り組みの背景には、創業者の精神を尊重しながら、会社として取り組む子ども支援や、地域社会との共生による貢献といった目的があります。さらに、創業100周年に向けた社内外との共創や風土改革の推進という側面もあり、知財部門が単なる権利化にとどまらず、社会貢献活動に参画することにも大きな意義があると考えています。

具体的には、社内の「Our100th推進部」が中心となり、中学生向けプログラムや障がい者の方々をお招きした活動など、次世代育成や社会貢献に関する取り組みを展開しています。科学技術館で開催された全日本学生児童発明くふう展に向けたワークショップでは、初回はOur100th推進部の支援のもと、公募で集まった有志とともに知財部門全員で運営に取り組みました。さらに、2回目には知財部門が主体となり、イベントの企画から運営まで担うなど、活動の自立的な発展にもつながりました。

このように、知財部門として地域社会に何ができるかを自発的に考え行動することは、社内の風土改革や100周年に向けた共創、そして当社のサステナビリティ活動の推進における重要なピースの一つとなっています。

ーー知財組織の変革や今後の展望を見据える中で、弁理士をはじめとする外部の専門家にはどのような役割や関係性を期待されていますか。

当社が弁理士の方々に求めるのは、単に依頼された明細書を清書する「作業の代理人」ではなく、自社の事業、現場課題、そして将来構想までを深く汲み取り、知財戦略をともに描き実行する「真のパートナーシップ」です。目先の技術だけでなく発明の本質的な価値を見極め、中間処理での重層的な論理構築や将来の分割出願を見据えた先手のご提案など、専門家としての高い見識に基づく忖度のない提案と力強い伴走を強く期待しています。

彭雅嫻氏

こうした相互理解に基づく協働は特許・意匠領域にとどまりません。長年の協働を通じて自社の事業構造やポートフォリオ全体を網羅的に理解していただくことで、商標出願における指定商品・役務についても極めて精度の高い提案を受け、事業実態に即した高度な権利化が実現できています。単なる「発注者」と「受注者」の関係を超え、企業の事業競争力を最大化させるためにともに悩み、挑み続ける不可欠な存在として、より高い次元での協働と提案を期待しています。

サトーの知財部門は今年度、自らの役割を「専門型機能」と「戦略型機能」へと明確に切り分ける大きな改革に踏み出しました。出願や権利化、調査といった「専門型機能」は、現在の事業を足元から泥臭く、そして確実に守り抜くために絶対に欠かせない土台です。しかし、上場企業として知財が真の価値を生み出すためには、これまでの守りにとどまらず、知財情報を分析して経営・事業戦略に活かすIPランドスケープなどを駆使して経営や事業を力強く引っ張っていく「戦略型機能」への進化がどうしても必要でした。

限られたメンバーで経営に資する示唆を出し、未来の収益源となる「新たな事業機会」を貪欲に創り出していく。そのためには、社内の知財メンバーが戦略領域に情熱と時間を注げる環境を作らなければなりません。そこで、信頼できる外部の知財パートナーと固い絆で結ばれたチームを作り上げ、足元の実務をともに進化させながら盤石に支えてもらう体制を整えます。最高のパートナーとともに土台を固めつつ、事業の未来を力強く切り拓く戦略へと果敢に挑んでいく——私たちはそんな熱い未来を見据えています。

集合写真