第4回
『Apple Watch』から学ぶ、スタートアップも
知っておくべき画面デザイン保護の可能性

2018.1.29

スタートアップの皆様がビジネスを成長させていくためには、他社による模倣をできるだけ排除したいところです。実際にはオープンにしていくとしても、排除するか拡げていくかを選択できる立場に立てたらいいですよね。そして、製品の外観が新しい場合にはその外観について保護できる可能性があります。
製品の外観は、意匠法において「意匠」と呼ばれていて、特許権と同様に特許庁に出願して審査を経て、登録査定を得ることにより意匠権が成立します。意匠権は、出願対象の意匠と同一または類似の意匠の採用を排除できる権利です。
意匠権は、純粋に美的なデザインに限られず、製品に現れる外観であれば、その全体または一部について取得できます。魅力のある外観、提供価値を効果的に伝える外観を生み出して意匠権を取得することにより、特許権で保護できる特徴がないような場合でも、他社との競争で優位性を維持できる可能性があります。
この記事では、身近な意匠権の例として図1に示す「Apple Watch」を取り上げます(「Apple Watch」はアップル インコーポレイテッド(以下「アップル」)の登録商標です。)。

[図1]

Apple Watch

「Apple Watch」の事例

アップルは、この製品について、携帯情報端末を対象として図2(a)に示す表示部の画面デザインを意匠として保護しています(意匠登録第1561416号)。図2(b)は、表示部の拡大図です。

[図2]

(a)アナログ時計

(b)表示部拡大図

図2のこの意匠(以下「本願意匠」)は、特許庁における審査において、出願前に知られていた時計の針の形状(図3)や時計の目盛りの形状(図4)を組み合わせて電子機器の表示部に表示したものに過ぎないと一度判断されました(平成27年9月30日付拒絶理由通知書)。

[図3]

アナログ腕時計 アナログ腕時計

これに対して、アップルは、図3をより明確に示す写真として、図5の写真を提示して、図3の針の形状と図2の本願意匠の針の形状は、針の先端部の形状が異なること、また、軸に固定されている針の基端部は、図3では、基端部の直径が本願意匠の基端部より著しく大きく、中心部分及び針全体に重量感のあるものとされているのに対して、本願意匠の基端部は、図3の針の基端部と比べてかなり小さく、本願意匠の他の部分(例えば、針の残りの部分や目盛り等)と調和がとれており、その部分の美感が図3の時計とは異なることを挙げて、本願意匠の針の形状と図3の針の形状が互いに異なるものであると反論しました(平成28年2月1日付意見書)。

[図5]

アナログ腕時計

そして、本願意匠は、時針及び分針のいずれにおいても、針の大部分を細長い長円形とし、また、5分毎の目盛りも細長い長円形とし、これらがまとまりのあることをデザインコンセプトとした独創的な意匠であり、図3と図4の時計のそれぞれも、全体として本願意匠とそれぞれ異なるデザインコンセプトのものであるので、それぞれ1つのデザインコンセプトをなす、別個の意匠の一部分だけをそれぞれ取り出して、組み合わせることは到底しないと主張し、仮に、図3の時計の針の形状と図4の時計の目盛りの形状を組み合わせても、図6に示すように、本願意匠とは針や文字盤の部分が全く異なる美感の意匠になると主張しました(同日付意見書)。

[図6]

アナログ腕時計

そして、これらの主張が認められ、意匠権が成立しました。特許法では、時計の針や目盛りの形状の保護はかなり困難ですが、意匠法では、新たな外観として保護されたのです。

保護対象となる画面デザイン

実は、意匠法の保護対象となる画面デザインの範囲は、産業の発展とともに変化しています。従来は、液晶時計の時刻表示や携帯電話のメニュー画面(初期画面)のような、製品が成立するために必要不可欠な、あらかじめ製品に記録された画面デザインのみが保護対象でしたが、平成23年に、それ以外のその製品の機能を果たすために必要な表示を行う画面デザインも、あらかじめ記録されていれば、保護対象になりました。さらに、平成28年にも保護対象が拡がり、「あらかじめ」の条件が緩和されました。さまざまな製品がデジタル化し、その提供価値もデジタルに実現されていく中で、画面デザインが担う役割はさらに大きくなっていくことから、今後も意匠法の保護対象となる画面デザインは拡大していくものと考えられます。
一点注意すべきなのは、IoTに代表されるようにデジタル化はインターネットとともに進んでいるのに対し、現行の我が国の意匠法では、インターネットなど製品の外部からの信号による画面デザインは「製品に記録されたものでない」という理由から、保護対象に該当しません。ここは少し残念ですね。

いかがでしょうか。
スタートアップの事業の知財化には、特許だけでなく意匠も活用できる場合があります。弁理士は、これらのメリットを得るためにどのように出願したらよいかを考え、スタートアップの皆様をお手伝いします。