第6回
特許出願はした!
スタートアップが次に考えるべき大切なポイント

2018.10.23

特許出願は、審査を経て特許権が成立して初めて、他社による実施を排除できるようになります。そのためには「出願審査請求」という手続を行うことが必要なのですが、スタートアップにとって、この手続のタイミングをいつにするかという判断はしばしば悩ましい問題です。

権利化のメリット

スタートアップの特許は、資金調達、大企業との連携、あるいはM&Aの際の判断材料となります。この場合、権利化が済んでいれば、投資をする側にとっては出願はしているものの権利は成立しないかもしれないという不確実性がなくなっており、より考慮に値する判断材料となります。早いタイミングで審査請求の手続を行って早期の権利化を図るという判断がよさそうです。

権利化の難しさ

しかし、スタートアップの特許出願には必ずしも早ければいいということではない難しさがあります。ピボットの問題です。
特許権の効力が及ぶ範囲は、「請求項」という記載の文言に基づいて定まります。権利化されても、今後競合となり得る企業のプロダクトを請求項の文言が捉えていなければ参入障壁や抑止力にはまったくなりません。プロダクトの特徴のうち、競合が模倣してくるであろう部分を正しく捉えて請求項に落とし込むことがとても大切です。
とはいえ未来を正確に予測することはできませんので、理想としては、出願時に考えられる設計変更を可能な範囲で特許出願に記載しておき、ピボットをした際にピボット後のプロダクトが特許出願でカバーされているかの検証を行っていくことになります。そして、プロダクト・マーケット・フィットが確認できたタイミングで模倣を防ぐべき特徴を請求項としてしっかりと表現し、審査請求に進みます。
もちろん、事業領域を変えるようなピボットや解決課題が大きく変わるようなピボットを1つの特許出願で対応することは不可能ですが、課題に対する解決策としてのプロダクトの具体化の中で行われる日々のピボットに対してはこのようなかたちで対応することができます。
たとえば、新規な化学物質がプロダクトであるような場合には早いタイミングで権利化すべき請求項が固まりやすいでしょうし、プロダクトがアプリでそのUIを発明として権利化するような場合にはやや慎重な見極めが必要となることが多いでしょう。
このように審査請求のタイミングは、特許出願後に検討をすべき大切なポイントです。ピボットによってプロダクトが変化し、出願当初の請求項の記載に包含されなくなったとしても、それを救済するために可能な特許法上の手続があります。弁理士は、特許出願が完了した後も、プロダクトの特徴を適切に捉えた権利の成立に向けてスタートアップの皆様をお手伝いします。