第7回
スタートアップによる特許への取り組みが促進する
オープンイノベーション

2019.2.7

大企業において、オープンイノベーションを通じて自分たちにはないコンセプトを取り込むことで、第四次産業革命の進展といった外部環境の急激な変化に対応し、競争力の維持や更なる成長を図る動きが高まっています。スタートアップにとっても、大企業との提携は資金や販路、あるいは知名度の獲得というメリットが考えられますね。

大企業とスタートアップ。大きく異なるからこそ提携に価値が生まれるわけですが、スムーズにコミュニケーションが進まないことも少なくありません。スタートアップによる特許への取り組みは、このような場面で、提携先としてのメリットを可視化させることができます。

まず、特許出願をしている事実は、新たなコンセプトを生み出す力の指標になります。特許出願は出願日において知られていない発明を出願対象とするものであり、少なくとも自社においてそう考えていなければコストをかけて出願行為を行わないわけですから、出願の事実は、独自性ある事業を立ち上げる力の表れです。

そして、継続的に特許出願をしている場合には、提携後も継続して成果が生まれていくことの合理的期待の根拠となります。もちろん、審査を通過して特許権を取得していれば、より強力な根拠となりますが、特許出願を重ねているということ自体が提携候補の大企業に対するメッセージになります。提携候補としては、提携時点での独自性も評価しますが、提携後も独自性が持続するのかということを同等に又はそれ以上に評価するのです。

また、大企業としては、スタートアップとの提携において、リスク評価も怠ることはできません。そのためのデューデリジェンス(以下「DD」)は様々な観点から行われますが、法務DDとしては、対象企業が他社の知的財産権を侵害していないかというクリアランスが挙げられます。このDDは、まだ規模の小さいスタートアップにとっては大企業のDDに耐え得る社内体制が整っていないことが多く、大きな負担となり、事業速度の低下を招きます。事業速度の低下は、急成長を目指すスタートアップにとって深刻な問題となり、上述した提携のメリットをそのためのDDのデメリットが上回るおそれがあれば、提携自体がなくなることもあるでしょう。

この点、スタートアップが特許権を取得していれば、法務DDの中で行われる知財DD或いは技術DDは円滑に進みます。具体的には、特許権は、特許出願が特許庁による審査を通過して成立しますが、その過程で先行する特許出願の調査が行われます。権利化されているということは、他社による同様の発明についての先行出願が存在しないことを意味しますので、提携候補の大企業としては、他社特許の侵害リスクが高くないであろうという判断材料になります。大企業としては、リスクを客観的に評価することができ、スタートアップとしては、DD負担を軽減することができ、双方にとってメリットです。

他社による模倣排除が特許に取り組む主な効果ではあるものの、説明してきたように、特許出願を行っている、さらには特許権を取得しているという事実をうまく使うことにより、オープンイノベーションの提携先としてのメリットを効果的に伝える効果ももたらします。

弁理士は、特許出願を効果的に活かしていただくための方法をスタートアップの皆様と一緒に考えます。