第8回
スタートアップにも理解してほしい、
特許出願後に始まる権利化の流れ

2019.3.4

特許出願は、審査を経て特許権が成立して初めて、他社による実施を排除できるようになります。そのためには「出願審査請求」という手続を行うことが必要で、そのタイミングをいつにするかという判断は難しい問題ですが、ここでは出願審査請求を進めるための具体的な流れを説明します。特許は出願したらそのまま取れるものではなく、出願してから出願審査請求によって権利化というプロセスが始まります。

手続補正書の提出

特許権の効力の及ぶ範囲は、請求項の記載に基づいて決まります。権利化したい対象がはっきりとして、でも出願時の請求項がそれをカバーする記載になっていない場合は、請求項を補正する必要があります。補正を行うためには、「手続補正書」を提出します。補正をすることができるのは、出願時に出願書類で説明した範囲に限られ、説明しなかった内容を事後的にカバーすることはできません。

出願審査請求書の提出

出願審査請求を行うためには、「出願審査請求書」という書面を一枚提出します。この手続きにより、特許庁で実質的な審査が開始されることになります。特許庁に支払う審査請求料は、請求項の数により変わります。この審査請求料について、スタートアップの皆様が「中小ベンチャー企業・小規模企業等」の定義に該当する場合には1/3に軽減してもらうことが可能です。軽減措置の適用を受けるためにご準備頂く資料は、減免対象者に該当することを証明するための登記事項証明書、株主名簿等の証明書類で、これらを「審査請求料軽減申請書」という書面に添付して申請を行います。証明書類については、2019年4月以降簡略化されることとなりましたが、それまでは原本の提出が必要となるものがありますのでご注意下さい。

早期審査に関する事情説明書の作成

出願審査請求書の提出後、審査官による審査結果の最初の通知が発送されるまでの平均期間は、ここ数年9.5ヶ月程度です。しかし、特許庁が定める「中小ベンチャー企業・小規模企業等」の定義に該当する場合には、簡便な手続で「早期審査」という制度を利用して審査結果の最初の通知が発送されるまでの期間を短縮することができます。この期間は、近時は2から3ヶ月程度となっています。手続きとしては、「早期審査に関する事情説明書」という書類を作成して提出し、その中でなぜ請求項記載の発明が新しいのか、先行技術文献との対比説明を記載する必要があります。
例えば米国とは異なり、通常の審査請求料を支払えば早期審査の申請のために追加の特許庁手数料はかからないので使い勝手がよいですが、どのように事情説明書を記載するかの詳細は専門的な部分も少なくないので弁理士にご相談頂けたらと思います。

ベンチャー企業向けのスーパー早期審査

通常の早期審査の他に、2018年7月から、ベンチャー企業向けのスーパー早期審査が開始されました。このスーパー早期審査は、特許庁が定める「ベンチャー企業」の定義に該当する企業を対象に、既に実施しているか実施予定の実施関連出願について審査結果の最初の通知が発送されるまでの期間を大幅に短縮するものであり、0.7ヶ月を目標にするとされています。手続きは、通常の早期審査と同様に「早期審査に関する事情説明書」の提出することとなります。しかし、事情説明書に「スーパー早期審査を希望する」ことを記載するなど、通常の早期審査よりも細かい部分もあり、正確に行わないと対象外となってしまいますので、期待する時期に審査結果を得るために間違いないよう慎重に進めて欲しいところです。

審査結果を受けて

早期審査を活用して審査結果を早く入手したものの、思惑通りの審査結果が得られない場合もあります。例えば、出願発明に近い先行文献に基づいて進歩性等が否定され、補正によりその先行文献を回避しようにも、新規事項の追加に該当するため補正できない場合です。この場合、出願から1年以内であれば、国内優先権主張出願を行い、明細書の記載内容をより充実させることで、拒絶理由を解消できる出願として新たに出し直すことが対策として挙げられます。また出願から1年を超え国内優先権主張できない場合であっても、出願公開前であれば、自己の出願を取下げて、その後より充実された明細書に基づいて再出願を行うことで権利化を図ることも可能です。このように早期審査を活用して早い段階で審査結果を入手し、その結果に基づいて、適宜、他の制度を活用することで権利化の可能性を高めることができます。
弁理士は、権利化に向けて各社の状況に応じた権利化プランを提案し、スタートアップの皆様をお手伝いします。