第9回
スタートアップ必見!
発明以上に重要な職務発明規程のススメ

2019.10.23

「皆様の会社では、発明に力を入れていますか?」
そうお尋ねすると、「力を入れている」または「入れたいと思っている」とお答え頂く方が多いのではないでしょうか。会社の発展のために、発明を生み出すことはとても大切です。

では、「社内で生み出された発明について、しっかりと職務発明規程を設けていますか?」
このようにお尋ねするといかがでしょう。
「考えたこともなかった」「そもそも職務発明規程って何?」と思われた方に是非見て頂きたい、
今回は、発明以上に重要な職務発明規程のお話です。

ケンカしている画像

社内で生み出された発明のことを、「職務発明※1」と言います。
この職務発明について定めたものが職務発明規程なのですが、職務発明規程を設けておかないと、どのような問題が起こるでしょうか。
一番大きな問題は、「権利の帰属(発明に関する権利の所有者)が不明確になる」ことです。

特許出願をするためには、「特許を受ける権利※2」が必要であり、特許を受ける権利を有しない者が、勝手に特許出願をすることはできません。
そして重要なのが、何も規定がない状態では、「特許を受ける権利は発明者に帰属」(特許法第29条第1項柱書)します。

そうなりますと、会社側は職務発明について特許出願をしたいのに、発明者の反対があってできないといった問題が生じるおそれがあります。また、権利関係を明確にしないまま会社が出願し、後にトラブルとなるケースもあります。

このように、権利の所有者が不明確のままだと、会社と発明者が揉めることにもなりかねませんし、特許権が成立しても無効になってしまうリスクがあります。
また、出資、事業提携、M&Aなどを検討する際、知財デューデリジェンスにおいて問題視されるといったデメリットもあります。

逆に言えば、職務発明規程をしっかりと定めておけば、このようなリスクやデメリットを避けることができます。
さらに、会社と従業者(従業者、会社役員など)の関係、権利の帰属、報奨金などを明確にしておくことで、以下のようなメリットがあります。

1.企業の信頼度が増す
社内環境が整備されていることで、安心して取引ができる会社という印象を与えます。
また、エンジニアを採用する際にも、好印象を与えることができます。

2. 従業者のモチベーションアップにつながる
従業者に対して報奨金の支払いなどを定めることで、社内でのアイデア活性化や、従業者の意欲向上につながります。

このようなメリットも考慮すると、権利関係やその帰属、報奨金について規定した、職務発明規程を設けることの重要性がお分かり頂けると思います。

先程、何も規定がない状態ですと、「特許を受ける権利は発明者に帰属」(特許法第29条第1項柱書)するとお伝えしました。しかし、特許法では、職務発明であれば、予め会社が特許を受ける権利を取得する旨、規則等で定めておくことができる(特許法第35条第2項及び3項)と、されています。

そこで職務発明規程の出番です。
職務発明規程を設けて、従業者が職務発明を行った場合には、「会社」が「特許を受ける権利を取得」するように規定しておくことにより、上で述べたような問題を避けることが可能です。 イメージとしては下記のとおりです。

職務発明規程のイメージ画像

なお、特許を受ける権利を予め取得する、という規定を設けることは多くの企業にとってメリットがありますが、その一方で、海外を見据える企業の場合には、予め会社が取得するのではなく、譲渡するように規定して、都度、譲渡証書を発行した方が良いケースもあります。

このように、どのような内容を盛り込めばよいか、より良い内容にするにはどうすればよいか、については業種や会社の状況によっても異なりますし、十分な検討がなされないままに職務発明規程を発効してしまうと、後から従業者に不利な取り扱い(例えば、報奨金の減額)に改定しようとしても、不利益変更に該当するために、改定が困難になる場合があります。
したがって、職務発明規程を作る場合には、知的財産の分野の専門家である弁理士に相談するのがお勧めです。

なお、弁理士に相談する前に、事前に下記の内容を社内で決めておくとスムーズです。

  • (1)発明時に会社に提出すべき書類
  • (2)職務発明であると認定する方法について
    • 【アドバイス】職務発明の認定と併せて、社内の承認フローも定めておくと良い
  • (3)特許を受ける権利の帰属について
  • (4)発明者に対する利益の支払いについて
    • 例えば…
    • ・特許を受ける権利を譲渡したときに金銭を支払う
    • ・登録時に金銭を支払う
    • ・実績補償(売上、ライセンス収入に応じて金銭を支払う)
    • ・ストックオプションを付与する など
  • (5)支払いの手続きについて(口座振込、など)
    • 【アドバイス】支払いワークフローも併せて作成しておくと良い
  • (6)従業者からの意見の聴取方法について
    • (支払額に異議があった場合、従業者がどのように意見を述べるか、など)
  • (7)その他
    • ・従業者と社外の者との共同発明の場合(別で規程を設ける場合もある)
    • ・外国における権利の取扱いについて など

職務発明規程を設けた後も、会社発展のためには、出願のデータベース化など、知的財産を体系的に管理することが肝要です。
弁理士は知的財産全般に精通していますので、規程の作成だけでなく、事業戦略を見据えた知的財産の管理についても相談ができるところが大きな魅力となっています。その際は、会社に関する情報をご用意頂くと良いでしょう。例えば、従業員数、出願想定件数、年間予算(概算)などの情報があれば、規模や予算に応じた計画を立てることができますし、雇用契約書の雛形、就業規程などがあれば、会社の体制を踏まえたアドバイスが可能です。なお、このような情報をご用意頂くことが難しい場合でも、ご心配には及びません。

まずはお気軽に弁理士までご相談ください。

※1「職務発明」とは
その性質上、① 「使用者又は法人(使用者等)の業務範囲に属し」、かつ、従業者又は法人役員(従業者等)がその発明をするに至った行為が、②「使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する」発明のこと (特許法第35条第1項)

※2「特許を受ける権利」とは
特許出願をするかしないか、権利を渡すか渡さないか、などを決めることができる権利で、発明をした人(発明者)に認められる