第21回「スタートアップ推進セミナー(横浜)レポート(大学発スタートアップの創業と知財活動の留意点)」
2026.2.18
1月28日、スタートアップ推進セミナー(横浜)(以下、「本セミナー」)が、日本弁理士会関東会中小企業・スタートアップ支援委員会主催、横浜市立大学の共催、特許庁スタートアップ支援班の後援で開催されました。
1. 本セミナーの概要
本セミナーの概要は下記の通りです。
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- (1)開催日時:令和8年1月28日(水)17:00~19:00
- (2)会場:横浜ランドマークタワー7階 横浜市立大学みなとみらいサテライトキャンパス
- (3)参加人数:会場:24名、オンライン:60名
- (4)プログラム:
- 開会挨拶(日本弁理士会関東会 中小企業・スタートアップ支援委員会委員長 弁理士 小川一 氏)
- 講演1「SUの創業にあたって心掛けてきた知財活動」(横浜市立大学 医学部医学科 循環制御医学 准教授 梅村 将就 氏)
- 講演2「スタートアップの知財活動における留意点」(アルト特許事務所/株式会社アルトIPコンサルティング 代表 弁理士 澤井 周 氏)
- パネルディスカッション「当事者の立場から見た大学発スタートアップ知財の実情と課題について」
- モデレータ:中小企業・スタートアップ支援委員会 弁理士 橋本 公秀 氏
- パネラー:以下の3名
- 1.梅村 将就 氏
- 2.澤井 周 氏
- 3.横浜市立大学 研究・産学連携推進センター スタートアッププロデューサー 後藤 優氏
- 閉会挨拶(横浜市立大学 宮城 悦子 副学長)
2. 内容
本セミナーは、大学発スタートアップ(以下、SU)知財の実情と問題点を明らかにすることにより、大学発SUの知財活動をより効果的なものにすることを目的とし、創業当事者、知財専門家、大学内支援者という各ポジションからのディスカッションを含む形式で開催しました。
創業当事者の梅村准教授からは、脳腫瘍治療装置の知財取得においては、論文発表を急ぎたい研究者としての気持ちと、権利化のために情報を秘匿しなければならない知財戦略との間で大きな葛藤があった旨の話を頂きました。特許審査の過程では、審査官に発明の新規性が理解されないと感じ、自ら特許庁に出向いて直接説明を行った経験も共有されました。
梅村氏が挙げた装置開発における知財の三大課題は、①出願のタイミング(特に論文発表との兼ね合い)、②PCT出願など海外権利化の多額の費用、③事業を守れる質の高い特許の取得、でした。
知財専門家の澤井弁理士からは、大学発SUの多くが技術はあっても事業的に成功していない現実を指摘し、知財活動における課題を「ヒト・モノ・カネ・情報」の観点から解説しました。
「ヒト」:知財専門家だけでなく事業全体を牽引する経営人材が圧倒的に不足している
「モノ」:スタートアップが大学の研究設備に依存することで、発明が大学との共同出願になり特許権が共有状態になるリスクがある
「カネ」:大学との共有特許や非独占的なライセンス契約は大きなリスク要因と見なされる
「情報」:論文発表とノウハウの秘匿のバランスが「大学における永遠のテーマ」である
パネルディスカッションでは、三人のパネリストが、それぞれの立場から大学発SUの知財に関する実情を議論しました。
秘密情報管理について、梅村氏は学会発表のスライド一枚一枚を専門家にチェックしてもらうほど慎重に対応していると明かし、澤井氏はNDA締結前に技術情報を話してしまう失敗例を挙げました。後藤氏は、研究者には思うよりずっと早い段階で専門家と繋がってほしいと述べました。
創業前の知財活動については、澤井氏が「SUを立ち上げた瞬間に大学のサポートはなくなる前提で考えるべき」と述べ、独立した企業としての覚悟と外部の経営人材の必要性を訴えました。
実用化の最大の障壁については、全員が「ヒト」の重要性を強調。梅村氏は「チームが『これならいける』と思えるかどうか」が最大の決め手だと語り、澤井氏は研究者の夢を現実的な事業計画に落とし込む伴走者の必要性を、後藤氏はそうした人材をどう見つけるかが最大の課題だと指摘しました。
3. 最後に
本セミナーを通じて、大学発SUが成功するための鍵として二つの点が明確になりました。
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- ①強力な「チームの構築」
- 技術シーズを持つ研究者だけでなく、経営人材や知財・法務等の専門家を含めた体制構築が不可欠です。研究者一人の力では限界があり、異なる専門性を持つ人材がそれぞれの役割を果たすことで初めて、技術の社会実装が可能になります。
- ②早期からの知財専門家の関与
- 研究の初期段階から事業化を見据えた知財戦略を立て、大学との複雑な権利関係を整理し、投資家から評価される強固な知財ポートフォリオを構築することが、資金調達や将来の出口戦略を成功させる上で不可欠であるという結論に至りました。
- ①強力な「チームの構築」
大学の優れた技術シーズが、知財という武器を纏い、市場で競争力を持つ強い企業へと成長するためには、戦略的な知財活動と多様な専門家との協働が必須であることが、本セミナーの最も重要なメッセージとなりました。